2007年08月24日

Point of No Return

Point of No Return(帰らざる地点)とでも訳しましょうか
救命医療の現場では時折使う言葉です。

心肺停止してから20分過ぎると蘇生は難しくなります。
ある種の薬品では、発症からの時間によってその効力が
無効になってしまうものも有ります。

この「帰らざる地点」を過ぎてしまうと、私たちスタッフが
どう頑張っても、命を救うことは難しくなってしまいます。
まさに「生命の分岐点」 Point of No Return なのです。


週末の朝、駅のトイレの個室で男性が倒れているのを発見され
駅員さんを通して救急要請がありました。

入ってくる情報から、恐らく脳疾患だろうと推測できますが
倒れられてから発見されるまで、どの位の時間が掛かったか
誰も知る由もなく、チョッと心配な状態でした。

到着後直ぐに各種検査を行った結果、脳梗塞が見つかり
倒れられた原因は確認できました。

問題は治療方針です。
もし倒れてからの時間が確認されて、所定時間以内なら
それに対応する薬の投与処置で可也の効果が期待できます。

でもその時間を過ぎていたら、その薬品を使えず後遺症も
ハイリスクで覚悟しなければなりません。

他のデータは検査結果から読み取れますが、
発症した時間は誰にも分からない状態です。
このままでは所定時間が残りどの位有るのか分かりません。

兎に角手分けして持ち物や駅員さんの証言など再確認です。
持ち物の中に携帯があり、Dr.の指示で止むを得ず
アドレスチェックさせて頂き、その中に「自宅」っと
いう項目があり、そちらへ連絡させていただきました。

奥様と言う方が出られて、ここまでの経緯と免許証の名前
それに携帯の電話番号でご主人だと思われることを話して
先ずは自宅を出られた時刻と、その駅までの凡その所要時間を
伺って、こちらへきて頂く様お願いしました。

奥様の証言から駅のトイレに入った時刻が推測でき
直後に発症したとしても、この薬品処置が可能な時間だと
判断出来たので、直ぐに処置開始できました。

その時間が所要時間ギリギリの30分前!
もし後30分手間取っていたら、この患者さんの社会復帰は
難しい物になったかも知れません。

まさに「Point of No Return」 生命の分岐点まで30分でした。

奥様が到着した頃には、意識も取り戻されていて
自分に何が起っていたのかさえ理解し得ないまま
奥様の引きつった泣き笑顔をボーっと眺めてられました。

患者さんは30代後半、働き盛りのサラリーマンさん。
朝の忙しさの中で腹痛を催し、駅のトイレに入ったことは
覚えてられましたが、その後は奥様のお顔を見るまで
何も記憶にない状態だったようです。

落ち着いてから病状をご説明したら、
「脳梗塞なんて、年寄りのなるものだと思ってた」と
驚いていらっしゃいました。

幸い機能障害も残らず、お若いので体力も有る分
社会復帰までの回復も早いでしょう!

予後観察のため数日の入院になりますが、その際には禁煙に
挑戦するのが目標になる程のチェーンスモーカーだそうで
奥様も心配されてたとの事でした。
タバコによる生命への悪影響が有ったのかも知れませんね。

分岐点30分前まで垣間見られたのですから、禁煙くらいは
奥様・お子様の事を思えば実行してくださるでしょう。

朝からバタバタしましたが、兎に角助かってよかったです!

at 20:23│Comments(10)TrackBack(0) 命のリレー 

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この記事へのコメント

10. Posted by なすび   2007年09月02日 14:41
ピモさん、こんにちわ。
とんでもないですよ^^
でもドックは機会が有れば受けられるのも良いと思います
自治体によっては年齢によって、補助金が出る所も
ありますから、受診前に地元の健康推進課などへ
問い合わせてみると良いかと思いますよ!
9. Posted by ピモ   2007年09月02日 10:56
私のコメント↓ムチャクチャですね(苦笑)
「安浦光子さん」じゃなくて「光浦靖子さん」でしたネ
なんとなく音が似てませんか?(言い訳です){困った}
話は全く変わりますが私も機会があれば
検査に行ってきます!
8. Posted by なすび   2007年08月26日 13:13
sacchinさん、こんにちわ。
そんな、そんな。。。
助けられた日はどれだけ疲れても達成感に浸れますが
そうじゃない日は、勤務を終えても気が晴れません。
実は昨夜がそうだったのですが。。。
こういう日のメンタルの切り替えに苦労しています。。。
7. Posted by なすび   2007年08月26日 13:10
徒然さん、こんにちわ。
帰らざる地点。。。
これは実際の現場では実は非常に重たい言葉です。
そして本当に時間との戦いを患者さんのみならず
スタッフ一同走り回って行ってますよ。
今回は携帯を持ってらしたので、
スムーズにご家族に連絡が取れましたけど
お年寄りなどで連絡のとり用がない方の場合は
警察に連絡して、ご自宅まで行ってもらうこともありました
携帯は登録しておくと便利な面もありますけれど
落としたときには、個人情報があっと言う間に
出てしまいますから、その点気をつけてね!
6. Posted by なすび   2007年08月26日 13:06
ピモさん、こんにちわ。
30代の発症って、実は結構多いんですよ。
まだ若い、そう感じられやすのですが、
脳疾患などは、生活習慣病でもありますし
人によっては先天性の場合も有ります。
ですから余り「若さ」だけで安心できるものでは
ないんですよ。。
もし機会が有れば、保険の心算で
脳ドックも受けられるのも良いですね!
5. Posted by なすび   2007年08月26日 13:02
アキラさん、こんにちわ。
生命の分岐点、その30分前まで垣間見られたら
やはり禁煙ぐらいは心掛けてくれそうです!
アキラさんが、無理に記念される事は、
逆にストレスになっても行けないので無理は禁物ですが
出来る所から徐々にでも、本数を減らされたり
過度の飲酒を控えられるなどで、大分違いますから。。
ご自愛くださいね!
4. Posted by sacchin   2007年08月26日 13:01
凄いなぁ。
ドラマや映画の中で起きてる様な緊迫したシーンが
日々日常で起こってるんですものね。
なすびさんのお仕事の大変さを
改めて思い知らされる出来事ですね。
3. Posted by 徒然   2007年08月26日 01:20
話を聞いてPoint of No Return(帰らざる地点)と訳すと、凄く重く感じます。
脳疾患 ホント、他人事だと思っています。
でも、なすびさんのブログで 若い人のこういった病気時々聞きますよね。
だから、本当は明日は我が身なんでしょうね。。。
携帯電話って、本人確認が出来ない状態での確認が出来るアイテムですよね。
そんな風に使うことは想定していなかったけど、念のため・・・
それなりの事は登録しておこうって思ってしまいました。
2. Posted by ピモ   2007年08月25日 21:24
あ?ヨカッタ!
読んでてドキドキしました。
それにしても30代での脳の病気
多いんですね。。。
先日も安浦光子さんでしたっけ?脳動脈瘤かで手術されていた
と言う事を知りましたが
あの方も30代中ごろなんでしょ?
本当に人事と思っていましたが
私も来年にはトホホな年齢になりますので
脳ドックでも受けてみようと思っています。
何はともあれ、患者さんが助かってよかった♪
1. Posted by shinobueakira   2007年08月25日 01:44
又も尊い命を救っていただきましたね!
お疲れ様でした、そして有難うございました。
Point of No Returnって言うんですね。
Drの指示は適切で冷静な判断ですね、携帯電話が救ってくれたのかもしれませんね!
しかし、奥様も驚かれたことでしょう、朝自宅を元気に出かけたご主人が、間もなく病院で、意識をなくし脳梗塞で倒れるなんて本当に信じられなかったと思います。
人間の生と死の境界線を何時も救急救命現場で活躍している、なすびちゃん達の医療チームの存在に感謝です!!
タバコはまだ止められそうもないですが、本数を少し減らします!!

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