2011年04月23日

約束

最初の被災地派遣は震災直後。
震災による怪我や環境変化による体調不良やPTSD、
クラッシュ症候群などの可能性のある患者さん、
そして元々地元の病院に入院されていた重篤患者さんを
地域外の通常医療行為が可能な病院へ搬送する為の活動でした。

二度目の派遣は、
救命救急患者さんの発生が一通り落ち着き
各地に避難所が設営され、ひとまず命を繋ぎ留めた方々が
避難所での生活の中での体調悪化や持病の継続治療のなどの為
被災者の皆さんの健康管理やメンタルケア
避難所の衛生管理が主な仕事として、いくつかの避難所を回りました。

今後もこう言った健康管理などがメインになる派遣が続くでしょう。
メンタルケアを含めて医師・保健師・看護師などが
連携しながらの復興助力を続けていければと思います。
派遣メンバーも数に限りがあるので1~2週間程度の交代制で
日本各地から集散して活動することになります。

そんな中前回の派遣時にあった思い出と約束を書いておきます。

避難所にも大小色んな規模のものがあり
500人程が暮す主要避難所や30人程の公共施設などを回りました。

その中では多くの場合、家族単位でまとまっていられますが
元々一人暮らしだったお年寄りや、
家族と離ればなれになってしまった方が
お友達や知り合いの方と寄り添って場所を得てらっしゃいました。

私が常駐するようになって直ぐに
 「夜鳴きする子供がいてうるさくて眠れない」
そう言うクレームが有りました。

あれだけの怖い思いをしたのですから、
子供たちがいつも通り寝れるわけないのに、そんなに怒らなくとも・・
そう思ったのですが、一応その子の話を聞いてみると。。。

小学2年生の女の子なのですが、
家族はお父さんだけが一緒に避難所にいて
お母さんや妹さんはあの日以降津波にのまれたのか
行方不明なのだそうです。
しかもお父さんは原発関連の職種に就いているので
昼間は近所の知合いの方に預けられ
ずっと一人で避難所生活を送っていました。
自宅から離れた避難所なので小学校のお友達も殆どいなくて
お父さんがいない時は本当に心細い思いをしていたのでしょうね。

お父さんの仕事が24時間制の勤務のようで
一日おきに夜も不在となってしまうそうです。
そんな時にどうしても淋しさに襲われて夜鳴きをするのだそうです。

あの恐怖を体験したのですからご家族揃った家庭のお子さんですら
子供帰りを起こしても当然の状況です。
このお子さんは本来なら一番甘えたいお母さんの行方が分からず
妹さんもあの日以来一緒に遊ぶ事も出来ずに
周りの大人の会話の中から、段々と「死」と言うものが何かを
感じ取りだしているようでした。

そんな不安を一身に込めて耐えているのに
その上、お父さんはどうしても仕事に出なくてはならない状況では
夜中にフラッシュバックに襲われ泣き出してしまうのも
この環境ではしょうがないほどの悲しい現実でした。

状況をお父さんと話し合い、
夜も一緒にいて貰えるご家族と連絡してもらえるようにお願いして
二日後にお父さんのお姉さん(叔母さんに当たる方ですね)が
迎えに来て下さることになりました。

それまで彼女が寝付くまでは私と一緒にいる事を許可してもらって
夕食が済んだら私の傍へ来て一緒にお話ししたり
何人かのお子さんたちと一緒に漢字や算数のドリルをしていました。

少し心が落ち着いたのか、彼女の方から色々話してくれて
私に甘える仕草も垣間見られて来た時でした。

 「おねえちゃんは犬好き?」

唐突にそう聞かれました。
私がランディと生活していることを話すと
すっごくランディの話を聞きたがり、写真を見たいと言い出しました。
その時写真もなかったので今度来る時見せてあげるねって
約束したら満面の笑みで「うん」って!!
○○ちゃんもワンちゃん好きなの?って聞いたら

 「5年生になったらお母さんが犬飼っていいって言ったんだよ」

彼女が5年生になると妹さんが2年生になるんだそうです
それでお母さんも今は幼稚園への送迎などで大変だけど、
その頃になったらペットを飼っても良いって約束してくれたそうです。

そして 「スカイツリーって見たことある?」

どうして?って聞き返したら
従兄弟のお兄ちゃんが中学の修学旅行で
スカイツリー見てくるって言ったそうでした。

ただその「お兄ちゃん」も津波の後、
何処にいるのか分からないままだそうです。

言葉の端々に、今は連絡の取れない人との思い出が混ざります。
特にお母さんに対しては10時の消灯間際までずっと話してくれました。

一緒に歯磨きして寝る前のトイレも済ませて戻ったら
抱っこしていた私の腕を掴んだままウトウトして寝入ってしまいました。

その晩は夜鳴きもせずグッスリ眠れたようです。
それは周りで休んでいた近所の方たちも一緒ですね。

その翌日、お父さんが仕事から戻ると
夕方近くに叔母さんが迎えに来て避難所を後にしていきました。


避難所に一人でいるよりは落ち着ける環境になればいいのですが
彼女の心の傷を癒すのには長い時間がかかるような気がします。

お父さんはそのままこちらで仕事を続けなければならない為に
避難所に居を置いたまま、一日おきに戻られていました。
被災者でありながらも原発に関わる方の難しい一面でもあります。



彼女とも約束したので、
今回の派遣時にはこんな写真を持って行こうと思います。

IMG_2995_R

隅田川からのスカイツリーとランディ

IMG_2997_R

いつの日か彼女がご家族と一緒にこの風景を自分の目で見て欲しい。
そう願いながら、お父さんへ写真を託そうと思います。






nasubi83 at 13:03│Comments(15)TrackBack(0) ボランティア 

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この記事へのコメント

15. Posted by なすび   2011年05月11日 10:57
徒然さん、こんにちわ。

寒暖の差の激しい日々ですがご体調はいかがでしょうか!?
今は無理されないでお大事にされてくださいね!

この女の子のお父さんに現地で再会でき
写真を手渡す事も出来ましたが
チョット悲しい話も聞かされました。
どうしても実際に被災した人と
そうでない人がいる以上こう言う事は起こるのでしょうけれど
被災地から離れるとやはり他人ごとになるのか
自分の所に被害がないならそれでいいという
安易な考え方が横行してしまうのでしょうね。
このお子さんがいつの日かスカイツリーを見に来た時には
きっと笑顔で隅田川沿いをお散歩できる事を望みたいと思います。
14. Posted by なすび   2011年05月11日 10:47
sacchinさん、こんにちわ。

お身体の方はその後いかがでしょうか?
入院生活も長引いているようですが
それも一つのメッセージとして今の環境も楽しんでくださいね!

私のブログを読んだ人が悲しい気持ちになられたり
読まなければよかったと思う事もあるでしょう。
戦争経験を口にされない方々のお気持ちも良くわかります。
確かに現場は悲惨ですもの。。。

悲惨な中に時にこちらが力を貰えるほどの
勇気や希望やそして東北人気質なのか!?
素朴ながらも骨太で実直な家族愛を見せつけられたりと
勉強させられることも沢山ありますね!

そう言った事が伝えられればと願いながら書いていますが
どうも私の文章表現力の無さの致す所で
うまく伝わらない事もしばしば…(-_-;)
もしよろしかったら稚拙ながらももう少しうまく
私のみてきた東北の勇気や希望を表したいと思いますので
お付き合いくだされば幸いです。

そして何より今は体調管理に注視されて
ぴーちゃんのお誕生日祝いをご実家でお迎えくださいね(^^)
それが一番のお誕生日プレゼントになるでしょうからね!!
お大事に。。

13. Posted by なすび   2011年05月11日 10:33
大野さん、こんにちわ。

小さなお子さんたちに心に傷を残さないよう
ケアして良く事も今の時点で大切な治療ですね。
大きくなってやがて自身が親になるころに
親の存在を少しでも心に留めておいてくれれば・・・
色々な意味でそう願いながらサポートしてきましたよ。



12. Posted by なすび   2011年05月11日 10:28
ばあばさん、こんにちわ。

お陰様で何とか無事に帰宅できました。
ちょっと心が疲れてしまいましたが・・・
そして女の子のお父様にも再会して写真を託す事も出来ました。
ただ悲しい現実も教えられました。

被災した子供たちは、子供たちなりに立ち上がろうとしています。
孤児となった兄弟にもメンタルケアでなども話しましたが
高校生のお兄ちゃんの決意には私が泣きたくなるほどの
強い弟への家族愛が感じられ必死に生きる事を見せつけられました。
みんな頑張っています。だから私も立ち止まっていられませんね!

11. Posted by なすび   2011年05月11日 10:23
アキラさん、こんにちわ。

政治家が纏まれないのと同じように
国民の中にも自分の所に被害のない事を望む人も多いでしょう。
原発だけで言っても日本中どこにでもあるので
明日は我が身と言う事も忘れているかのような
空しい言葉を励ましの気持ちで口にする方もいらっしゃいます。
現実を理解し相手の気持ちを理解した上で
初めて励ましもできる事を再認識させられた派遣でした。。。
10. Posted by なすび   2011年05月11日 10:20
ヨッコ先生、こんにちわ。

被災者の中には悲しい言葉をぶつけられる人も多く
その多くは相手の不用意な自分中心の考え方からの言葉だそうです。
そして恐れているのが「自分たちの現状が正確に伝わっているのか不安になる」ことだそうです。
風評も原発被害も正しく現実を理解されていれば
子供がいじめられたりする事も無いのでしょうけれど。。。

9. Posted by なすび   2011年05月11日 10:14
wiredさん、こんにちわ。

御嬢さん二人姉妹はみゆきちゃんたちと一緒でしたね!?
皆の願いがwiredさんと一緒だと
この子もどれだけ安心できたことでしょう。
でもきっと今を乗り切れば彼女にも幸せな時間がやって来るはず。
そう信じてサポートして行かなくてはいけませんね!
8. Posted by 徒然   2011年05月09日 09:45
子供を残して旅立たれた方の想いは計り知れないものと思います。
そして、残された家族も。
今は生きて行くために精一杯踏ん張っておられるんだと思います。
彼女が本当に家族一緒にスカイツリーを見られる日が来ますように。

なすびさん本当にありがとうございます。
お身体無理なさいませんように。。。
7. Posted by sacchin   2011年05月09日 09:33
途中で送信してしまいました
続き→
少しだけわかる気がしてきました。
口にするのも辛いし、聞いた人が同じように辛くなるのが嫌なんだろうなと。
私も、震災の報道や家族から聞いた話を
ブログにのせようかともおもうのですが
読んだ人も辛くなるんじゃないかと不安で
なかなか踏み切れないでいます。
なすびさんも、お辛い気持ちの中
私たちにお伝えしてくださってるんでしょうね。
実際現場で目の当たりにしてるわけですから、ご苦労も多いでしょう。
どうか無理なさらないでくださいね。
6. Posted by sacchin   2011年05月09日 09:22
災害孤児というか、親御さんをなくされたお子さんが
沢山いらっしゃるのは報道でしってますが
実際にそのお子さんの生活を聞くと
こんな思いしてる子が他にも沢山いるのかと
心が潰される思いになります。
最近、戦争体験を話したがらない人の気持ちが
すこ
5. Posted by 愛媛の大野です   2011年05月05日 21:59
こういう環境におかれた方たちはとても多いんでしょうね
 状況が分からないだけに言葉が見つかりません。
 話しを聞いてすぐに対処したり、約束をしてそれを守ろうと動いたり本当に今回も献身的な行動に感動します
凄いです
4. Posted by Happyばあば   2011年04月30日 14:38
なすびさん元気にされてますか?
女の子のお父さまには会えましたか?
ランディ君の写真が無事女の子の手元に届くといいですね。
そしておばさんのところで安心して暮らしていることを望むばかりです。
TVで小さな兄弟が二人で避難しているのを見たことあります。
健気に避難所のお掃除などをしておばあさん達のお手伝いをしていました。
地震だけだったら良かったのに・・・
と言ってるのを聞いて胸が熱くなりました。
こんな怖くて辛い思いをした子供たちがまだまだ沢山いるのでしょうね。
オットットさんがスナッグゴルフの全国大会で子供たちを引率して行った富岡町も、町ごと早くに避難してしまって皆さんがどこにいらっしゃるのか皆目わからない状態です。
3. Posted by shinobueakira   2011年04月26日 23:52
小学校2年生の女の子との約束ですね!
ランディ君とスカイツリーの写真は喜ぶでしょうね!
この年齢でお母さんと妹を一瞬のうちに失ってしまった喪失感はむごいですね。
5年生になったら色々楽しい事が一杯待っていたでしょうが、残念ですね。
このような子供達がまだまだ沢山いるのかと思うと辛いですね。
地震や津波で家族を失い、原発で住んでいた故郷を奪われようとしている今回の被災者達には誰が救いの手を差し伸べてくれるのでしょうか?
政治家達には期待が出来そうもないです、こんな時に総理がどうだ、こうだと言ってる場合ではないでしょう。
こんな緊急非常事態でも政治家は一つになれないのは哀れですね。
せめて国民だけでも心を一つにまとまりたいものです。
2. Posted by ヨッコ   2011年04月25日 00:07
もう出発されたのでしょうか?
兎に角ご無事で任務遂行して帰ってきてくださいね。
鹿児島では桜もおわり花を楽しんだり病院のコミュニティルームではギターを弾いたりと
春の気分を楽しんでいますが、ここは九州。
余震もなければ停電の心配もありません。
ここの感覚で東北の人に桜を楽しんで元気になってとか
音楽で気持ちを落ち着かせてなんて言っても
そちらの人は、この女の子のように毎日が被災地の真っただ中なんですものね。
こちらの安易な言葉が時には悲しく聞こますね。
九州の人が現実も知らずにうわべの励ましを言っても
逆に現実が伝わっていないと不安になるのが分かります。
この女の子のように、被災して家族を未だに探し続けてる人がいるのに
花を楽しめるわけないですもの。
安易な励ましはいけませんね。
いつもなすびさんには色々気づかせてもらいます。
60近くのおばさんが若い御嬢さんに教えられてばかりでは情けない。
この女の子のようなご家族が早く一緒に暮らせるようになる事を祈るしかできません。
1. Posted by wired   2011年04月23日 17:57
泣いちゃったよ
女の子が幸せになりますように
明るい未来がまってますように
ランディ君とスカイツリーの写真喜んでくれるといいですね(^_^)

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